今月のプレゼンテーション

アスコットで描く新競馬場構想

吉田 照哉


 イングランディーレでイギリスのアスコットゴールドCに挑戦してきました。直線で一杯になっての9着は、慣れない環境にとまどったこともあるでしょうし、あるいはあのメンバーでは力不足だったとの見方もあるでしょう。いずれにしても、謙虚に結果を受け止めたうえで、ひとつひとつの経験を今後に生かしていきたいと思います。

 そしてもうひとつ、アスコット競馬場での収穫は、あらためて本場の奥の深さを実感できたことです。というのも――今年はかなり走りやすい馬場だったとのことですが、それでも20ハロンで行われたゴールドCの勝ち時計は4分20秒90もかかりました。芝丈が長いうえに、アップダウンが非常にきつく、直線のマイル戦でさえ3つの大きなマウンドを越えることになりますから、1分40秒台を越える決着も珍しくはありません。そのようなコースでは馬の底力とともに、どこで抑え、どこで追い放つか、微妙なスピード調整が重要になります。壮大な自然と繊細なかけひき、このコントラストがレースに圧倒的な迫力を添えているのです。

 少し話は逸れますが、ここでアメリカのプロゴルフに目を向けてみたいと思います。今年のメジャー大会(競馬でいうクラシックに相当)第二弾・全米オープンはシネコックヒルズというゴルフ場で行われ、その優勝スコアは4アンダーでした。第一弾のマスターズの優勝スコアが9アンダーだったことを考えると、一見は低調な結果にも思えます。しかし、海沿いのコースで、世界の強豪たちが強風や複雑な地形と対峙する姿には、低調どころかむしろプロゆえの技術の粋を見たような気がしました。整備された箱庭のようなコースでバーディを重ねるのもゴルフなら、自然のままの過酷な条件でコース戦略を練るのもゴルフです。

 そこで、日本の競馬を振り返ってみましょう。年を追うごとに高速化が進み、ついにダービーでは2分23秒台の時代が到来しました。サラブレッドの基本はスピードであり、生産者としての社台グループもまずはスピード重視した馬づくりに励んできたことは事実です。しかし、必死になってパーをセーブするゴルフにもしたたかな説得力があるように、競馬においてもタイムだけでは推し量ることができない醍醐味があることを、今回のアスコットでまざまざと知らされた気がしたのです。


 ところで、いまの北海道の競馬関係者を中心に、ひとつの話題が盛りあがりつつあります。札幌の中心地から南東へ車で20分ほどの豊平区の一角に、新しい競馬場を建設しようという計画です。札幌ドームに隣接するこの広大な丘陵地帯は、農業試験場として農水省の管轄下にあり、現在、その一部は羊ヶ丘展望台として観光用に開放されています。かの有名なクラーク博士の立像が示しているまさにその方向に、札幌競馬場を移設しようというわけです。

 市街化が進む現在の札幌競馬場はいささか手狭になった感もあり、私もそのような時期にきていると考える一人です。そして、せっかく新しい競馬場をつくるなら、いままでの日本にはないまったく新しいタイプの競馬場にしてほしいと思います。では、新しさとはどういうことでしょうか。その具体的な部分を考えるときに、思い浮かぶのが先に申しあげたアスコットの風景です。地形そのままのアンジュレーションを取り入れ、直線は長く、カーブの緩い広大なトラックを丘のスタンドから一望のもとに見下ろす、そんな自然に溶け込んだ美しさを再現するだけの地理的条件を候補地は備えているのです。

 そこで、もうひとつ連想されるのが、アイルランドのレパーズタウン競馬場です。ダブリンの中心地から車で15分ほど、丘の中腹にそのままコースを敷いたような形態まで今回の候補地とそっくりです。9月上旬に行われるアイリッシュチャンピオンSは凱旋門賞の重要なプレップレースであるとともに、アイルランドの秋競馬の総決算的な位置づけにあります。かつては政府観光局が食品物産展と組み合わせてこの開催を全面サポートしたこともあり、いまでも多くの人が秋の一日を楽しみに訪れます。なんとも羨ましい話ではないでしょうか。

 そんなレパーズタウンやアスコットのような競馬場が日本にもできれば、タフなコースを苦にしない個性的な馬が集まり、番組のバリエーションが広がります。そして、ここでしか堪能できないレース展開や風景を求めて人も集うことになるでしょう。街中の競馬場の近代的なスタンドもいいものですが、一面のパノラマや大自然の風というのも本来は競馬の楽しみを彩るものであったはずです。今回のアスコット訪問は、私たちがどこかで忘れかけていた何かを思い起こさせてくれました。原点の回顧から、もうひとつのファンサービスのあり方、観光資源とのリンクによる興行性の構築など、新たな発見と可能性が広がることがあります。新競馬場構想、まだまだ計画の入口にも達していない段階ですが、皆様からのご意見もいただきながら、実現に向けた世論をぜひとも盛りあげていきたいところです。

(社台グループ発行月刊誌『Thoroughbred』平成16年8月号より転載) 


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